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第39話 崩れそうで、崩れないあなたに

last update Last Updated: 2025-12-28 18:13:55

「……朱音。こんな時間に?」

「気になって。……様子を、見にきたの」

 夜の社長室は、必要最低限の照明だけが落とされていた。

 ブラインド越しに滲む街の灯りが、机の上の書類の角を鈍く光らせている。

 未整理の資料、冷めきったコーヒー、外されたネクタイ。

 ここ数日の張り詰めた時間が、そのまま置き去りにされたみたいだった。

 彼は苦笑したように視線を下げた。

「大丈夫だよ。……いや、大丈夫にする」

 その言い方が、逆に危うかった。

 強がっている。

 立とうとしている。

 折れかけている——でも折れていない。

 無理に背筋を伸ばした人間特有の、不自然な静けさ。

 それが、胸の奥にじわりと沁みてきた。

「今日……全社がざわついているわ」

「だろうな。……当然だ」

 晴紀は深く息を吐いた。

「神園家の支援は止まる。三か月後、現金が尽きる。

 秋企画が外れたら……本当に終わる」

 言葉にしない恐怖が、声の端で震えていた。

(……こんな顔、見たことない)

 七年前、何度も衝突して、言い合って、それでも前に出ていた頃。

 あのときの晴紀は、もっと強気で、もっと傲慢で、

 失うことを恐れていなかった。

 でも今、目の前にいるのは——

 失うものの重さを知って、それでも立っている人だった。

「ごめん……私が、たきつけたから」

「違う」

 即答だった。

 迷いもなく、目をそらさず。

「君が悪いんじゃない。俺が選んだんだ。

 支援に寄りかかった老舗を続けるか、

 自分の足で立つ会社に変えるか」

 言葉のひとつひとつが、決断の重みを帯びて落ちる。

 そして、かすかな声で続けた。

「……もう、これ以上は逃げたくない」

 胸が熱くなった。

 弱いのに強くて、

 揺れてるのに、決意だけは揺らさない。

(……やっぱり、引き寄せられる)

 それは恋とか、情とか、

 そんな単純な言葉では片づかない感覚だった。

「私も逃げない」

 そっと言葉がこぼれた。

「秋企画、必ず成功させる。

 あなたの未来を、私が形にする」

 晴紀は、息を呑んだようだった。

 ほんの一瞬、目の奥の揺れが吸い込まれて、

 それから静かに、落ち着いた光に変わる。

「……ありがとう。朱音」

 その声は、弱さと強さが混ざっていた。

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  • 憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~   第40話 《希望の赤》が割れる夜、あなたに抱きとめられた手が熱い

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